ごあいさつ
日本教育オーディオロジー研究会 会長
大沼直紀 (筑波技術大学名誉教授・初代学長)
音声ことばを必ずしも聞き取る必要のないほど情報保障環境に恵まれ、手話をコミュニケーション手段としている最近の多くの聾・難聴青年が、それでも補聴器を外さず「音の世界」にも接しています。「音を感じる世界(補聴)と言葉を見る世界(手話)」の両方に自分をうまく適合させた新しいタイプの聾者・難聴者が生まれ育ってきていることが実感させられます。
空気中に生まれた生物としてのヒトは、人や環境から発せられる音刺激に触れその恩恵に浴するように創られています。全ての子どもには、音を可能な限り受容する権利があることを忘れてはなりません。
聴覚障害者とのコミュニケーションに関わる者は、補聴器を着け聴覚を活用する目的が、単に音声がよく聞き取れて話が通じるようになることだと狭く理解してしまうことがあります。人間にとっての聴覚の大事な意味には、たとえ残存保有する聴力が「音声(話し言葉)」の聞き分けには役立たなくとも、「音(環境音など)」が聞こえることにより生活の空間や感性が広がりを見せるという側面があります。
21世紀の聴覚障害者の情報保障環境は、社会の変化と科学技術の進歩に合わせて着実な進展を見せています。補聴器と人工内耳も、人の一生の始まりから終わりまで、生涯の早くから遅くまで長期にわたって装用されるようになるでしょう。聴覚法、口話法、手話法など、どのような言語コミュニケーションの手段が選択されようとも、全ての聴覚障害児には何らかの音情報が保障されなければなりません。聴覚には人としての感性を支える本源的な意義があるということを、教育の場で、教育オーディオロジー研究を通して確認したいものです。
日本教育オーディオロジー研究会
会長 大沼直紀(筑波技術大学名誉教授・初代学長)